それから数日。
欲しいものはと聞くまでも無い事を聞き、主人はカウンターへと歩いて行った。彼が戻って来る間、アーシェはテーブルに就いて大人しく待って居る。彼の前には水の入ったグラスがひとつ、他には何も無い。漸く栄養剤だけで満足出来る様に体が馴れて来た様で、アーシェは嬉しそうにグラスを眺めて居た。
「君も栄養剤だけ?」
声の方に向くと、緑色の長い髪の少年が立って居た。彼もまた水の入ったグラスを持って居る。アーシェが頷くと、緑色の少年は彼の正面に座った。
「僕はティアー」
「アーシェ!」
互いに名乗った後、アーシェは暫くティアーを見て居たが、ティアーの視線は直ぐにグラスへと落ちた。小さく溜息を吐くその表情は暗い。落ち込んで居る様に見えるが、意図的に周りを見ない様に視界を遮断して居るかの様にも見える。そう思える程、グラスから眼を離さない。
「君さ、少し前に普通に喰べてたよね。今日は栄養剤の日とか?」
ティアーはゆっくりと顔を上げ、アーシェを見た。
「あの日は特別。何か喰べるのは好きじゃ無いんだ」
アーシェの言葉にティアーは眼を丸くする。金色の瞳が驚きに満ちて行く。
「何それ……どう言う事?君は人間じゃ無いの?味覚は?」
ざわ、と。ティアーの髪が揺れた様に見え、周囲の空気が変わった様な気がした。アーシェは少し驚いた様に瞬きをした。
「み……かく?お腹空いた時は、周りの全部が嫌いになるから」
その言葉を聞いたティアーの表情は今にも泣き出しそうな、とても悲しそうなものだった。何故そんな事を聞くのか、そんな顔をするのか、アーシェには解らない。声を掛けようとした時、ティアーの主人が彼を呼んだ。緑色の少年は悲しそうな金色の眼を向け、主人の元へと歩いて行った。