【れいた】
髪や顔を真っ紅に染めた子供が泣いて居る。その紅は明らかに血液だが、彼の……鴒多のものでは無い。鴒多が縋り付く様にして居るのは彼の父親だったもの。未だ体温が残っては居るが、今はただの肉塊である。その右側頭部には小さな穴が、反対側には大穴が空いて居る。薄っすらと開けた眼は何も無い虚空を、何の意味も無くただ映して居た。
「お父さん……お父さん……」
死んで居るのは直ぐに解った。徐々に失われる体温を捕まえたくて、鴒多は冷たくなり始めたそれを抱き締めた。
「ぁ……お母さん……は……お母さん……何処……」
不意に立ち上がろうとしたが、何故か脚が動かない。力が入らない。どう言う訳か、感覚が全く無い。何故だろうと頭の片隅で思ったが、それを考えられる程冷静では居られなかった。今は母親が無事で居るか否かが重要なのであって、脚がどうにかなった事はどうでも良かった。いやに重く感じる体を引き摺り、母親が居るであろう部屋を捜す。
「お母さん……何処……お父さん……が……何処……?」
蛞蝓が這った様な跡を残しながら鴒多は家中を這い回った。誰の名前を呼んでも返事は無い。この家はどうなってしまったのだろう。誰がこんな事をしたのだろう。父親は何故死んで居るのだろう。母親は何処に居るのだろう。この脚が動かないのは何故?考える頭は無い癖に、疑問ばかりが浮かんで来る。