出血量を見ると早急に連れ出したかったが、要求を無視する事は出来無い。いや、無視しても良いのだが、寧ろその方が良い様な気もするのだが。
「……解りました。捜しましょう」
鴒多の指示と床に残る体を引き摺った跡を辿りながら、母親の姿を捜す。父親の居た部屋と鴒多が這い回った場所以外は、全く手が付けられて居なかった。何時もと同じ光景なのに、酷く不気味に感じる。体を預けて居る彼に聞こえるのではと言う程、鴒多の鼓動は激しく脈打って居た。
「どうしたの……?」
二階へ続く階段を昇った所で、スーツの男は足を止めた。鴒多には見えないが、彼には見えたのだ。開け放たれた扉の向こうに投げ出された白いもの。
「居た、の?」
「見ない方が宜しいかと」
スーツの男をじっと見詰める鴒多の体は震えて居る。既に理解して居るのだろうし、それを認めたくも無いのだろう。しかし実際に確認した訳では無いので、思い込みであって欲しいとか……思って居るのかも知れない。そんな鴒多に促され、スーツの男はゆっくりと歩き始めた。そうして、鴒多の視界にそれが映る。傍まで行きたい等と言うかと思ったが、鴒多は直ぐに顔を背けた。スーツの男の胸辺りに顔を押し付けて、静かに泣いて居た。
「余り放って置くと危険です。貴方を死なせる訳には行かない」
鴒多の返事を待たず、スーツの男はその場を後にした。