「お前には何時も汚れ仕事をさせてすまないね」
「いえ、私の事はどうかお気になさらず。それより彼ですが」
スーツの男に抱き抱えられた鴒多は、頭がくらくらすると訴えて居た。応急処置を施されては居るが出血が酷く、早急な対処が必要な事は目に見えて解る。もう独りが待って居た車に乗り込み、スーツの男は鴒多を発見してからの経緯を話し始めた。鴒多が体の違和感や痛みを殆ど感じて居ないらしい事、あの家には他に両親しか居なかった事。その話を聞いて居るのは彼の雇い主、No.0と呼ばれて居る男である。
「……そうか……厳しいな」
No.0は何処かに連絡を入れた。何かが必要だとか、性格がどうとか。スーツの男は眠りに落ちた鴒多を抱えたまま、鴒多が今後どうなるのかと少し心配になった。彼の力の及ぶ所では無いのだが、そう思わずには居られなかった。
「今のお話はまさか……実用化されたのですか?」
「未だ出回る程では無いがね。No.3に逢った事は」
臨床試験を始めたのはつい先日の事だと聞いた気がするが。彼の事は信頼して居るし、不信感を持った事は一度だって無い。しかし、この話に限っては正気の沙汰とは思えない。もし失敗したらこの子はどうなってしまうのだろう。
「No.3ですか……話には聞いて居りますが、直接は未だ」
「彼女に逢ってみると良い。本人に聞くのが一番だろう」