「無理はなさらないで下さい。傷が開きます」
No.0の後ろに居た男が鴒多を静止させようと駆け寄り、鴒多の体に手を掛けた。あの家に居たスーツの男とは違う様だ。同じ様な黒いスーツを着て居るし、良く似て居る様だが。眠気の吹き飛んだ鴒多は彼を見た。
「全然痛く無いです。それと、僕は虐待なんかされてない」
馬鹿な、とスーツの男が呟く。両脚が撃たれて居たのと腕の骨折、No.0が言って居たでは無いか。充分な処置はしたが、ある程度傷が塞がるまでは痛みは当然ある筈。まさか未だ麻酔が効いて居るのか?と言うか、今何と?こんな傷を負わされて虐待されて居ないとは、こんな不可解な事があるだろうか。何なのだ此奴は。
「そんな無茶をして居ると気付かない内に死んでしまうよ。壱架、寝かせてやってくれ」
名前を呼ばれ、我に返る。勝手に考え込んで居る場合では無い。気付けば鴒多は漸く上半身を起こした所だった。取り敢えず大人しくさせなければ。
「この方の言う事は聞いて下さい。本当に死にますよ」
不満そうな鴒多を寝かせ直し、No.0の後方へと戻る。言いたい事は沢山あるのだろうが、先程の言動から壱架はその全てに興味があった。まさか本気であんな事を言った訳では無いだろう。只の死にたがりか、ハードなマゾヒスト。この類いの人間なら……若しくは洗脳とか。