【 】
「もう好きじゃ無い」
背後から聞こえた声は、意外な事に明るかった。振り向いて一言「そうだよ」と言ってやれば諦めが付くかも知れない。あの子も、私も。けれど、出来無い。出来る訳が無い。
「僕も」
聞き馴れた声が、繋ぎ止めるかの様に話し出す。
「ずっと前から好きじゃ無かったよ、貴方の事。知ってた?」
無理に笑って居る。見なくても解る。あの紅い眼は今、涙で一杯かも知れない。きっとそうだ。この子は凄く良い子で、嘘を吐くのが下手だから。
「僕ね、寝てる時に部屋に入った事あるんだよ。首に、鋏当てた事もあるの」
「お花に剃刀入ってた事、あったでしょ。それから、写真が真っ紅になってた事も」
「大事にしてたお人形は骨になってた。硝子の動物は全部頭が無くなってた」
「全部僕がやったんだよ。知ってた?何処まで気付いてた?」
気付いて居たに決まってる。その行動の意味も、全て解って居た。当たり前だ。この子をこんな異常者にしたのは、私なのだから。
「本当に駄目なの?未だ足りない?教えてくれないの?」
段々と、小さく沈んで行く。 もう何を言っても聞いてくれないと解ったのだろうか。それはそれで寂しいものがあると言うのは、余りに勝手な考え。だが、これは仕方の無い事なのだ。私はこの子の親でも何でも無い。この子は私の顔も名前も知らない。
「……キライ」
その言葉を聞いた瞬間、胸が張り裂ける様な気がした。それだけは言わないで欲しかったのに、と、また勝手な思考が動き出す。