この話は周囲がそれ相応の機関に通報するより先に、とある男の耳に入る事になる。前述の通り鴒多自身が認識して居なくとも彼が死亡する確率は非常に高く、保護する必要があると判断されたのだ。多少強引な手を使っても。
(私は構いません)
何処までも勝手な男と。
(普通の……生活がしたい……)
何処までも勝手な女。
死に際、父親が鴒多を撃った理由は解らない。意図的では無かったかも知れない。本当は手放したく無かったのかも知れないが、だとすれば何故頭を撃ってやらなかったのか。何にせよ、痛みを忘れてしまった鴒多は生き残った。
「そろそろ良い頃か……迎えに行ってくれ。もしもの時は」
「解って居ります」
そうして鴒多は両親から離された。彼を保護したスーツの男、醒奈は鴒多の行動や言動に終始驚いて居た。目の前で自分に発砲した父親、常日頃から手を挙げて居た母親。産まれた瞬間から虐待されて居たであろうこの少年の、両親に対する愛情はとても純粋なものであった。
「ストックホルムシンドローム……と言う奴でしょうか……」
色の違う眼を隠す様に前髪は長く、その下には周囲の傷の手当ても兼ねて居るであろう包帯が巻かれて居る。
「本来なら普通の事なんだがな」