アーシェは歩きながら先程の言葉を何度も頭の中に巡らせて居る。
(幸せだったか?)
そうだったかも知れないし、違うかも知れない。どちらなのか解らないから、解らないと答えた。色々な服を着せて貰い、毎日三回も御飯を喰べさせて貰えて。顔が見えないのは此処と同じだったが、見た事の無い新しいものを沢山見た。寂しく無い様にと、毎日一緒に寝てくれた。……居心地は良かったかも知れない。手が離れた瞬間「泣かないで」と呟いた、あの人。それがどんな意味なのかは解らなかった。あの人は全くの他人で、期間が終れば別れる事は解って居た筈なのに。
「あの人、何で泣いてたの?僕もそうした方が良かったのかな」
さぁな、と、適当な返事が返って来る。
「親か飼い主の気でも居たんだろう。お前と居たのは半年足らずだが、あの妄想癖じゃ三日も世話すりゃ充分。犬かよ」
その言葉の意味を半分も理解出来無いままアーシェは何度目かになる自分の腹の虫の音を聞いた。以前はこんな事無かったのに。あの人のくれるものは大抵美味しいと感じた。と言う事は、幸せだったのかも知れない。しかし、その所為で今の空腹感が辛い。あれが無ければこんなに辛くないのかと思うと、どちらが良いのか再び解らなくなって来る。
「何か喰いたいモンは。無ければ適当に用意させるが」
此処の食事だって、好きなものを何時もと言う訳では無いが、美味しいものを出してくれる事には変わり無い。喰べた回数は少ないけれど。
「中が紅くて、黄色が乗ってる 奴。ふわふわの」
「はぁ?中が紅?黄色?名前は教わらなかったのか」
本当に教えて貰わなかったのか、単に憶えて居ないだけなのか。アーシェは腹を抑えて俯いたまま、解んない、と呟いた。