食堂にはアーシェと同じ白い服を着た者が数人居た。彼を適当に座らせ、主人は食事が出されるカウンターへ向かう。
「何かご注文ですか?」
実に愛想の良い女性スタッフとは反対に、難しい表情をして居た。正確には表情は見えないので、そうして居る様に見えた。
「今さっき担当のが帰って来たんで、好きなものを喰わせてやりたいんだが」
「まぁ!それはお優しいですね!何時もは余りいらっしゃらないですよね?何に致しましょう?」
若干テンションが上がった彼女に、主人は更に考え込む仕草を見せる。どんな難しいメニューなのかとその答えを待つ。子供の言う事だから、何段重ねのケーキとか。馴れた栄養剤が欲しいとか(彼女には理解し難いが、意外と好きな者が居るらしい)。他にありそうなメニューはと言えば……
「……中身が紅くて黄色いふわふわが乗ったもの……だそうだ」
てっきり料理の名前が来るものだと思って居たのだが、彼の難しい顔を漸く理解した。暫し顔を見合わせたままで居たが、何方とも無く考え込み始める。
「……オムライス、でしょうか。他に思い付きませんが……創作料理だったりしたらお手上げですね」
「取り敢えず一つ頼む。違ってたら其処までだ、我慢させる」
座らせたアーシェをちらりと見遣ると、空腹に耐え兼ねたのかテーブルに突っ伏して居るのが見えた。そんな姿を見てしまっては、我慢させると言う酷な事は出来無い。彼女は数回横に首を振り、いやに熱の込もった声で言った。
「我慢させるなんて駄目です!少しでも近付ける様に頑張りますので、暫しお待ち下さい!」
真剣な表情で厨房へと引っ込んで行く。通常、彼女の作るオムライスは薄焼き卵だがそんな事は関係無い。今はどれだけふわふわに出来るかが勝負なのだ。料理自体があくまで推測である事をすっかり忘れて居る。
「声掛ける奴を間違えたか……」