意識が遠退くと錯覚する程の空腹感。普通に生きて居れば当たり前の空腹と言う感覚にアーシェは打ちのめされて居た。本当は食堂に連れて来られただけで料理なんて来ないのでは無いか。先程の答えは実は間違って居て、これはそのお仕置きなのでは……逸そ寝てしまおうかと眼を閉じた、その時だった。
「お待たせ致しましたっ!」
直ぐ傍に、何かが置かれた感覚があった。眼を開けると同時に体を起こす。其処には白い皿に盛り付けられた黄色いふわふわが白い湯気を立てて居た。アーシェの前にスプーンが置かれる。
「……!」
アーシェはスプーンを手に取り、黄色の真ん中に突き刺した。掬い出すと、その下には紅く色付いた御飯と、それを彩る小さな緑やオレンジが見えた。仄かな酸味を含んだ香りが鼻腔を擽ると、再び腹の虫が騒ぎ出した。
「わぁ……凄い……!」
これで大丈夫なのかと内心ヒヤヒヤして居た調理スタッフと諦め掛けて居た主人は、アーシェの反応を見て胸を撫で下ろした。
「ケチャップは要らないんでしょうか。上に落書きとか」
二人の目の前で、アーシェは皿に顔を突っ込みそうな勢いでオムライスを口に運んで行く。
「そんな暇無いらしいぜ」
綺麗な半球型に盛り付けられて居たオムライスはみるみる内に小さくなって行く。嬉しそうに喰べて居るのは良いのだが、今まで通りの生活に戻るまでが大変そうだと、主人は駄々を捏ねるアーシェの姿を思い浮かべた。あっと言う間に空になった皿を前に、アーシェと調理スタッフが彼に視線を向けた。二人共やけにキラキラして見える。嫌な予感がする。
「こう言う料理って、実は作る機会無いんです。また是非喰べさせてあげて下さいね!」
彼女の隣で、アーシェも笑顔で頷いて居る。主人は仮面の下で思い切り嫌な顔をし、即答した。
「嫌だね」