【バケモノ】
モストロと言うのはその人物の本当の名前では無いらしい。周囲の者は、彼が所謂化物であるからそう呼んで居るのだと言う。力がある訳でも無く、財力どころか親が誰かも解らない。特別な人脈がある訳でも無い。にも関わらずそれなりの地位があるらしいのは、彼がバケモノだからに他ならない。
……と言う様な話であった。
何処に居るかは知らないが、と続けた男の右目には派手なタトゥーがあった。彼は通称ドーと呼ばれて居る所謂情報屋である。と言っても彼自身がそう名乗った訳では無く、単なる噂好きが何時の間にやらと言う事らしい。治安と言う言葉すら知らなそうな所にわざわざ来たと言うのに、余り期待出来無そうな展開に南槻は溜息が出そうになる。
「私の様な者のお陰で貴方自身もさぞ迷惑して居るでしょうね……」
八つ当たり気味の言葉が出てしまう。何人かに聞いた限り、奇種が関わって居る事は間違い無さそうなのだが。そんな目立つであろうものが簡単に見付からないとなると、意図的に隠されて居ると考えるのが自然だろう。何処かの組織に居るともなれば更に厄介。面倒なのも大いにあるが、後先の事を考えると余り踏み入りたく無い。
「勝手に来て勝手に期待されてもね。現場は見て来たんだろ」
「現場?」
ドーは少し馬鹿にした様な笑みを浮かべ、新しい煙草に火を着けた。流れて来る煙を払う南槻の仕草を気にする様子は無い。
「誰も言わなかったか?」