外界の者が彷徨いて居ると言う話は文字通り瞬時に広まった。幸いにも警戒では無く物珍しさからの様だが、目的の人物がどうなのかは解らない。既に警戒されて居るのか偶然か、あれから姿を現さないらしい。敢えて擬態しなかった事が裏目に出たのかと、南槻はドーの言葉を思い返して居た。
「羞恥心で死にたくは無いので」
しかし、南槻は結局スーツで現れた。先ずどうすれば擬態になるのかが解らないと言うのが南槻の正直な所である。
その話はまぁどうでも良いとして、肝心のモストロについてはその後の情報はそう多く無い様だった。派手な行動をしないだけで出て来ては居るのかも知れないとの事だが、それこそ擬態して居るだろうからとドーは言った。
「外見の特徴等は全く解らないのでしょうか……事後の目撃しか無いと言うのは流石に不自然では」
「暴れ回ってんのが独りじゃ無い事位は解るだろ」
誰かが死んだ直後か若しくはその瞬間を見たとしたら。それが人成らざる者の仕業だとすれば、口を閉ざす者も居るかも知れない。
「そんなに知りたいなら……目の前で誰か襲わせるってか」
当然冗談で言ったのだが、南槻は否定しなかった。それどころか、そのふざけた話に乗って来た。
「良いですね、流石です。優先的に選ぶのはどう言う人物なんでしょう……」
この界隈の人間か、外界か。これまでのモストロと事件の話は全て又聞きに寄るものなので、被害者の情報は断片すら無い。それどころか事件自体も何処までが事実なのか解らない。やはり直接見た者の証言が必要だ。若しくは自分で見るか。
「待て待て、頭可笑しいのか?誰かが死……いや殺されるんだぞ」
単なる思い付きで誰かを犠牲には出来無い。それが全くの他人であってもだ。顔色ひとつ変えずに淡々と話を進めようとする南槻を見たドーは、やはり上層部の人間に取っては浮浪者の命等その程度のものなのだと思った。利用するだけしたら後はどうでも良い、自分も例外では無いのだろうと。
「まぁ落ち着けよ、掃除屋には未だ当たって無いだろ。奴等は現場を見てる」
「そうでした。掃除屋とは何人も居るのですか?」
「この辺りは一組だけだな」