「……変わったヒトだね」
ケーキをつつき、青いドレスの女はカウンターに眼を向ける。
「あの人は未だマシな方だよ。ルネは知らなかったっけ」
紅いドレスの女、レノが笑った。彼女も店主と同じく《マスター》に雇われて居る売人の独りである。
「アレがマシなの……」
ルネと呼ばれた青いドレスの女は、隣に座る少年にケーキを喰べさせながら言った。頬杖をついて電話をする店主の姿を見て、薄暗い店内の疎らな客を見渡す。ツギハギだらけの少女、まさか本物では無いだろうが獣?の耳と尻尾のある青年、顔までびっしりとタトゥーを入れた片腕の男。……確かに変わった感じの客が多い様だ。
「(変な所に来ちゃったな……)」
自然と異質なものを見る眼で彼等を見てしまう。その中に自分も交じって居る事に、彼女が気付く事は無い。自分だけは《普通》だと線引きする事で、精神的な安心感が生まれるから。
「うーっ」
唐突に、大人しくして居た少年が声を上げた。はっとしてそちらを見ると、他所見をし過ぎた所為でケーキの乗ったフォークが少年の頬に当たって居る。 「あ……御免御免……」
何か拭くものはとテーブルに視線を落とすと、丁度少年の前に白いナプキンが飛んで来た。何事かと飛んで来た方を見ると、店主が電話をしながらそれを使え、と指示して居る。あんなでも客の事は見えて居るのかと、ルネは少し店主を見直した。
「御免ね、もう少しで終るから」
少年の頬に付いたクリームを拭い、軽く髪を撫でる。少年は黙ったまま数回頷いた。
「それにしても……此処のケーキの美味しさだけは何時来ても異常だよねぇ。仕事が無くても来たくなっちゃう」
美味しいでしょ?と、レノは少年の頭を撫でながら彼に問う。ルネはレノがこの空間に馴れて居るのだと改めて思った。少年の方は解らないが、自分は少しでも早くこの場から立ち去りたかったのだ。
「ねぇレノ……」
声を掛けようとして、ルネはレノの方を見た。すると、彼女はタトゥーの男と何やら話して居る。それもかなり親し気に。ルネは何と無く取り残された気分になった。