ルネはフォークを置いてぼんやりして居たが、つい店内を見回してしまう。……と、独りの客に眼が留まった。奥まった席に座って居る、金髪の少女。外見と言う意味では他の客よりはマトモそうに見えるが、彼女が話し掛けて居る向かいの席には誰も居ない。話の内容は勿論聞こえないが、実に楽しそうだ。
「(誰も居ないのに、誰かと話してる……?)」
殆どの客が複数で商談か何かをして居ると思われる中、独りきりで居る少女の存在は浮いて見える。花畑でも見えそうと言うか、其処だけキラキラして居ると言うか……その可笑しな雰囲気に、ルネは少女から眼が離せない。
「……彼女、どうした?」
レノと話していたタトゥーの男がルネの様子に気付き、レノも眼を向けた。二人がルネの視線を辿って行くと、店の一番奥のテーブルに行き着いた。
「……リリィか」
「ちょっとルネ、大丈夫?帰っておいでー!」
肩を掴まれて強く揺すられ、ぼんやりと少女を見て居たルネは我に返った。レノとタトゥーの男は既に会話をして居なく、自分を見て居る。
「えっと……何?」
「何?じゃ無いよ……」
「お前さん、色々と持って行かれそうだったぜ、彼奴に」
男が指したのは、先程の不思議な少女だった。大丈夫かとか持って行かれるとか訳が解らない。見馴れないものに意識が行くのは、割と普通の事では無いのだろうか。
「あの子ね、彼の嫁なんだって」
彼とは既にカウンターで寝息を立てて居る店主。あんな可笑しな人に家族が居るのかとルネは驚いた。優秀なのか特殊な位置には居る様だが、あぁも酒浸りでは大変だろう……雇い主も怪しいし。
「子供生まれるとか何とか……」