意外と愛されて居たりするのだろうか。愛想の良い姿が全く想像出来無いが、仕事と家庭で二面性がある事は特別な事では無いと思う。一方の嫁の方も変わった人間の様だが、変わり者同士で息は合うのかも知れない。
「……って言う話、俺が聞いたのは昨夜で三回目位だ」
しかも、三人も居るなんて。人は見掛けに寄らないとは、こう言う事を言うのでは無いだろうか。
「あー……私もそんなもんかな。でもさぁ、話した事も無いのに良く此処まで膨らむよねぇ。恋人位までなら解らないでも無いけど」
「……え?夫婦じゃ無いの?」
声を上げたルネを、レノと男がほぼ同時に見た。ルネの周りに疑問符が見える。様な気がする。
「アレで妻子持ちだと思う?」
再び指した先の店主は起きて居たが、やはり棚から酒を出して来ては飲んで居る様だ。誰がどう見ても駄目人間に属する。客が声を掛けても、愛想どころかマトモに答えてすら居ない様に見える。
「無理。絶対無理。冗談でも嫌」
でしょ?とレノは苦笑しつつ頬杖を着いた。
「妄想の相手が主だけなら……まぁ世話無ぇんだけど」
妄想と言うのは恐ろしいもので、人に寄っては在る事も無い事も、全てを現実の様に捉えてしまう場合がある。頭の中だけでならば問題は無いが、酷い時には相手を追い込む事になりかねない。
「詳しくは知らないけどさぁ、過去にそんな噂もあったよね」
「自身の安全を保証したいなら関わらない方が良いぜ。見て解るだろうが、こんな世界だからな」
さらりと言ってのけるが、それがどれ程の危険を孕んで居るかが嫌でも解る。無意識に向けた視線の先で、少女と眼が合った。此方を見て眼を細め、微笑んで居る。ルネは思わず眼を逸らした。