「青い空、緑の野原」
白いフリルの付いたワンピースを纏ったアリスは、眼に映るものやその肌で感じるものを呟きながら、のんびりと歩いて居た。
「温かい陽射し、優しい風」
アリスの姿は、異様だった。 景色の鮮やかさの中、相反する漆黒のワンピース。その闇に映える、長く伸ばした金髪。陽射しを反射してきらきらと輝く様は美しくもあり、また不気味でもあった。
「あの小さな影は……何かしら」
然して気にもならないと言う様な、形式的な台詞を言わされて居る様な。そんな声でアリスは呟いた。歩いて居た脚を影に向け、ゆったりと距離を縮めて行く。彼方も此方へ向かって居る様で、次第にその姿が見えて来る。
「黒い服……金の時計……」
在ろう事か、それは首から下げた時計を見ながら走って来る。目の前のアリスの存在に眼もくれず、スピードを緩める事も無く突っ込んで来るのだ。アリスはゆっくりと右手にあるものを握り締めた。
「白い耳」
ヒュッ、と風を切る音がしたと同時に、それはぴたりと脚を止めた。アリスの右手には大型のナイフが握られて居り、その刃先は走って来た白兎の喉元へと突き付けられて居る。後一歩踏み出して居たら、鈍く光る刃先は彼の喉を抉って居ただろう。
「こんにちは!ねぇねぇ、僕を殺したら帰れなくなっちゃうよ?時計、消えちゃうよ!」
刃先を撫でながら、白兎は子供の様に笑う。今にも飛び出しそうな勢いだが、そんな事をすれば首にナイフが突き刺さるのは容易に想像出来た。
「解ってる。白兎さんに聞きたい事があるの。教えてくれる?」
僕の知ってる事なら、と彼は答えたけれど。彼に解らない事なんてある筈も無かった。
【此処は何処?】