白兎の言う事は唯一あてにしても良いと言える。が、子供と同等の頭脳を駆使して喋る事と彼の遊び好きな性格を合わせて考えた時、何時も此方が正しく理解出来るとは限らない。
「そんな嫌な顔しないでよ」
ふと立ち止まったアリスの足元に、何やら丸いものが落ちて居た。それは良く見なくても動物の頭部であり、アリスを上目遣いに見上げて笑って居る。本体は何処かと見上げると、傍の樹の上に紅と黒の縞模様が見えた。
「今更驚かないから。回収して貰える?」
足元の頭部があぁそう、と眼を細めて呟くと、樹上からブーツを履いた脚が落ちて来た。それに続いて紅と黒が順に落ちて重なり、体が出来上がる。一番上に頭部を乗せ、チェシャ猫の完成である。彼は相変わらず口角をつり上げて、アリスに手を伸ばした。
「そうだよねぇ……白兎は信用出来る。でも、僕だって情報は色々持ってるんだけど?」
アリスの濁った眼に猫の姿は映って居ないのだが、彼はそんな事はお構い無しと言った様子。鋭い爪をアリスの肌に軽く立て、頬や首元に滑らせる。
「……何も言ってくれない芋虫さんの方が幾分かマシな位」
気付けば猫の左手首から先は切り離され、黒いワンピースの下を這い回って居た。胸や腹部にも爪を立てられ、苦く甘い感覚が無理矢理引き出される。ざらりとした舌がアリスの唇を撫でた。
「じゃあさ……少し遊んでよ。そうしたら良い事教えてあげる」
「馬鹿ね。その舌、噛み千切ってあげたいわ」
アリスは猫の腹部にナイフを突き付けたが、それは全く意味を成さない。猫の不愉快な笑い声の少し後、苦悶の吐息を漏らすアリスの脚に紅い筋が伝った。
【チェシャ猫と淫行】