柔らかな陽射しを受け、銀色のナイフやフォークが輝く。同時に甘い香りが辺りにふわふわと漂って居る。強い苛立ちを感じたアリスは光の方向に銃口を向け、引き金を引いた。
「血の匂いが……二つ」
銃弾が飛んで行った方向へと歩いて行くと、緑色の蔦が絡みに絡んだテーブルが見えた。白いクロスが掛かったその上にはポットやティーカップ、それにクッキーやケーキが所狭しと並んで居る。
「悪く無いかも。前より男前になったんじゃない?」
騒ぎ立てる眠り鼠と三月兎、椅子の背凭れに体を預けた帽子屋が何時もと同じ位置に座って居た。
「あ、やぁ。お茶飲んでく?何か喰べる?まぁ座りなよ」
三月兎はそう言うが、空いて居る椅子は何処にも無い。アリスがテーブルに歩み寄ると、死んだ様にじっとして居た帽子屋がゆったりと顔を上げた。
「ふふ……これは心地好い」
銀色の髪に始まり、顔から首からシャツにまで紅が伝って居る。先程の銃弾は彼の頭に命中した様だった。落ちた雫がクロスや食器を汚して行く。
「己を満たすだけの行為が楽しいと言うのは、理解出来ますが」
伸ばされた手が触れる瞬間、アリスは帽子屋に銃口を向けた。
「汚れるわ、触らないで」
「気分は如何ですか?一瞬でも彼を愛しましたか?」
アリスの言葉をさらりと流し、帽子屋は喋り続ける。頭を撃ち抜かれたと言うのに、彼は何時もと全く変わらない。
「彼から貰ったものですか……全く良い趣味だ。僕は君に代償等要求しませんから、安心して下さい」
彼は紅く染まり始めた紅茶を一口飲み、澱んだ笑みを浮かべた。
【帽子屋からナンパ】