夢を見て居るのだ、と思った。
今日は良く晴れて居て少し暑い位。幾つかの白い雲の塊がゆったりと流れて行く空の下、私はアイスを囓りながらぼんやりして居る。気温が高い事やアイスが冷たい事を感じるのに何故夢なのかと言うと、周りの光景が何とも奇妙だからだ。 先ず、雲は白いのだが空はピンク色をして居る。太陽は水色をして居る。私が座って居る地面?床?は白いのだが、実に様々な色の水玉模様がある。壁にも……と言う事は、此処は室内なのだろうか。あんなに高い空に雲と太陽まで浮かんで居ると言うのに。そしてその水玉模様の床の上に小さな白い塊が無数に散らばって居る。これは綿だ。私の直ぐ傍に滅茶苦茶に引き裂かれた兎?ユニコーン?そんな感じのぬいぐるみがある。其処から飛び出した綿が散らばって居るのだ。血液を模して居るのか、虹色の液体も撒き散らしてある。水玉模様の正体はコレだ。虹色に染まって居る綿もあり、何処かで見たカラフルな綿飴を思い起こさせた。
そんな訳で私は今、暑くて冷たい夢を見て居る。
【黒い服は貴方が良く見えるように】
すっかり喰べ終ったアイスの棒に謎の言葉が書かれて居る。当たり……では無い様だ。当たり付きのものは数あれど、この手のものには当たった試しが無い。本当に存在するのか?と疑問が湧く程には縁が無い。そんなどうでも良い事を思いながら謎の言葉を眺めて居たが、当たりでは無い以外の意味は解らなかった。そもそも私は黒い服なんて着ないのだ。今だって。
「……ぁ?」
クリーム色のTシャツに何と無く好きな感じのブランドロゴが小さくプリントしてあって、カラフルな水玉模様が…… 水玉模様?
そんな服、持ってない。
少し怖くなって、アイスの棒を持った左手を見る。そう言えばこの手も何だか汚れて居る。左手、左腕、Tシャツ、右腕……と辿って行くと、右手に何か握って居るのに気付く。
「……鳥」
鋏と言うには余りに可愛らしい、小鳥を模した鋏が手の中にあった。元の色が解らない程、虹色がこびり付いて居る。それを握る右手も虹色の手袋をして居るかの如く汚れ方が凄まじい。嘴に綿の欠片が挟まって居て、この子がぬいぐるみ達をやったのだなと思った。
「ちがウヨ」
「やッタノハあなた」
可愛い鋏が可愛くない声で喋った。私がそんな酷い事を。可哀想に。だからこんなに汚れて居るのか。可哀想に。御免なさい。
「だいじナあなたが」
私が。
持ち方が悪かったのか、握り直そうとした時に少し指を切った。周りがこんな風だからてっきり緑色や黄色の絵の具の様な血液が出ると思ったのに、それは紅かった。真っ直ぐに引かれた細く紅い線の真ん中辺りから丸く盛り上がって行く。私は生きて居るのだな、と思った時、五月蝿い位に降り注いで居た陽の光が暗くなった様に感じた。雲がかかったのかとピンク色の空を見上げると、水色の太陽を中心に空が灰色になって行くのが見えた。波打ち際みたいだな、と思った。みるみる内に虹色は失われ、壁や床やTシャツのカラフルな水玉模様は紅黒く変わって行く。
「……夢……」
次に瞬きをした時、座り込んで居たのは良く良く知った自分の部屋だった。
其処にあるのはぬいぐるみ、では無い。
散らばって居るのは綿、では無い。
撒き散らしてあるのは虹、では無い。
其処に居るのは大好きだった……いや、今だって大好きなあの人だ。撒き散らされて居るのはあの人の欠片と血液。信じられない位無惨な姿なのに、顔は眠って居る様に美しい。
私は小さく溜息を吐いて、眼を閉じた。つい先程まであんなに晴れて暑かったのに、今は空気がひんやりして居る。アイスで冷えたのかお腹が痛む気がする。今日はもう何も喰べられそうに無い。 私の手には、あの人を刺した鋏とアイスの棒があった。
(当たり!)
【アイス/ハサミ/水玉】