熟睡して居る時には夢を見ないなんて嘘だ。それが本当だとして、夢を見て居る時が浅い眠りなら何故起きられないんだ。嫌な夢を見て居る時に起きられないのは、眠りが深いからじゃないのか? ……と、大嫌いな悪夢の攻略法を見付かる筈が無いと解って居ながらも捜してみる。途中で眼が醒めるなら未だマシ。うなされながらも朝まで起きられないから困ったものだ。前者だったとしても、見る事自体がそもそも嫌なのだが。
「……何だよ」
ぼんやりするなとでも言いた気に、手に持って居る鎖が軽く後ろに引かれた。視界なんて殆ど無い筈なのだが、無いものに見られて居ると思うと、眼で見られるより良い気はしない。そんな事を思って居ると、無言の意思が脳内に滑り込んで来た。
「五月蝿ぇな、俺は良い奴なの。それこそ自分で嫌になる位……」
そんなに良い奴なら、と、通り掛かりの店を指す。その先を見ると、硝子一枚の向こうに並ぶ白いブラウスが先ず眼に入り、途端に嫌な予感がした。可愛らしいフリルの付いたワンピースや、赤いチェックのスカートが次々と視界に飛び込んで来る。更には開店作業をして居る店員と眼が合ってしまった。彼女は眩しいばかりの営業スマイルを浮かべ、聞いても居ないのに開店時間を教えてくれた。……彼の言いたい事は解ったがとても気が進まない。冗談じゃ無い。
「……お前なぁ……」
子供の、しかも女の着る服なんて解る訳が無い。確かに見るに耐えないとは言ったが。買うの買わないのとつまらない言い合い……端から見れば独り言だが……をして居たが、仕事へ向かう途中だった事を思い出した。
「あぁ……誰かの所為で遅刻だな、責任取れよ」
未だ時間に余裕はあるが、小さな腹いせに大袈裟な事を言ってみる。解り切ったその言葉に、拘束具の塊はわざとらしく肩を竦めた。