店内に犬を残し、逃げる様に出て来たハンターは少し離れた所にあったベンチに腰を下ろした。世間ではあぁ言ったものを可愛いと言うのだろうが、血液まで甘くなりそうなあの空間に長く居られる気がしない。しかし、洋服や小物だけであの濃い世界を造り出せるものなのかと遠目に見ながら思った。人間の視覚や感覚とは不思議なものである。
そう言えばこの町には何度か来て居る筈だが、買い物どころか町の散策すらした事が無い様な気がする。単なる仕事場でしか無い所ではあるが、見回してみると色々な店が並んで居る。例えばこのベンチを置いて居る店は【色の専門店】とある。何を売る店なのかは良く解らない。良く見るとベンチには細かな柄が描き込まれて居るが、何の模様なのかはやはり解らない。それと少し気になったのは、郊外よりも町中のホテルの方が待遇が良かったりするのだろうか。
そうして暫く待って居ると、店員に見送られながら犬が出て来た。彼女は店のロゴらしきものが印刷された袋を犬に手渡し、深々と御辞儀をして店内へと消えて行く。犬は辺りを見回し、ベンチに座ったハンターを見付けるとゆっくりとした足取りで近付いて来た。
「……店員の人柄とかどうでも良いから。何買ったんだ全く」
手渡された袋を覗くと紅いものが見えた。その下にも何かある様だが、畳まれて居る所為で何なのかは解らない。例え広げて見せられても、解る自信は全くと言って良い程無い。
「こんなの何処で憶えたんだよ……俺なんかあの空間に居る事が既に苦痛だったってのに」
聞けば、仕事仲間(と言う事にして置こう)の彼女に聞いたのと、店員の薦めで決めたとの事だった。あのペットを構って居る間に何か話して居るなとは思ったが、そんな内容だったとは……と言うか、アレの事を其処まで気にして居たとは。からかって居た訳では無かったのか。
「未だ何かあるのか。何だそれ」
手渡されたのは、真っ黒な生地で作られた眼帯だった。寧ろこれだけで充分では無いだろうか。