陽が沈み、明るかった夕焼けが少しずつ青と灰色に変わって行く。暗くなり始めた頃、あの森へ足を踏み入れた。毎日どころか数時間前に歩いたばかりの路だと言うのに、木や草がえらく密集して居ると言うか、物凄く歩き辛い気がする。気が重い所為だろうか。
「……あ?」
昨日も今朝も同じ場所に居た筈なのに、あの化物は何処かへ行ってしまったのか其処に居ない。まぁ二日も三日も同じ場所と言うのは流石に在り得ない話だが、姿が見えなくなる程遠くまで行ったのだろうか。自立して歩ける事に吃驚である。昨日見付けた時から今朝まで同じ場所に同じ様な体勢で座り込んで居た為、動けないものだと思い込んで居た。
「居ない。帰ろう。序でにそのまま忘れ……何だよ、別に不思議でも何でも無いだろ」
心配では無いのかと聞かれても、そんな事は考えもしなかった。前にも言ったが、ジャケットをくれてやったし手当てもしてやった、それで充分だろう。心配もクソもあるか。何度も言う様だが頭から離れないのはそう言う意味では無いのだ。まさか本気で気に掛けて居るとでも言うのか。
「俺はあんなのどうでも良いんだよ。寧ろ居なくなってくれた方が有難いね、悪夢見なくて済むし」
犬は何度か頷き、辺りを見回した。どうか出て来ないでくれ、もう関わりたく無いんだよ。アレの姿を捜す犬の隣で、ハンターは何度も何度も腹の底で呟いた。まぁ犬が移動出来る距離なんて鎖の所為で大したものでも無いし、視界も狭い。アレが勝手に移動した時点で此奴に見付かる筈は無い。……向こうから現れない限りは。暫くそうして居たが、微かに感じた視線に犬も気付いた様だった。
「……気付いたか」 悪意があるとか無いとか、何処から見て居るかとか、其処まで解る程超人的では無いが。あの化物を除けば、この森で小動物や虫の一匹すらも見掛けた事は一度も無い。だから気付くのだ。