「おい……ありゃ何だ?」
誰に問い掛けるでも無く呟く。背後に居る筈の拘束具の塊は、その鎧に阻まれて言葉を発する事等出来はしない。解って居るが、何か言わずには居られなかったのだ。少し離れた所にあるソレが、余りにも異様だったから。彼等の姿も充分過ぎる程異様だが、それとこれとは訳が違う。
「うふふ……おー?」
深い緑の中に、ぽつんと白いものが見えたのだ。やたらと小さく見えたそれは近付いてもやはり小さく、人間の後ろ姿に見える。服は、着て居ない。
「あー!きゃはは!!」
声から察するに少女の様だ。 言葉なのか何なのか、意味不明な何かを楽し気に喋って居る。見えない何かと話す為の特別な言葉なのかも知れない。暫く聞いて居たがやはり理解出来無かったので、会話は出来そうも無いと勝手に判断した。だがこの時既に、目の前の子供の形をした何かを放って置こうと言う気は無く、寧ろ何なのかと興味すら沸いて来る始末。つい先程会話は無理だと決め付けたが、通じないと解って居ても自分の言葉で話し掛けてしまうのが人間と言うものである。
「お前、何してる」
直後、彼は声を掛けてしまった事を猛烈に後悔する。 振り向いたそれはやはり人間の子供に見えた。それから、右眼が無かった。眼球がある筈の其処は瞼ごと何かに抉られた様な空洞。その空洞から紅黒い血液が流れて居て、気味悪い程の白い肌を汚して居る。それだけでも嫌だと言うのに、垂れ流しの血液を触って付いたものなのか、体の其処此処に紅黒い色が付いて居た。余りの気味悪さに逃げたい衝動が沸き上がる。それを知ってか知らずか。少女に見えるそれは濁った左眼を細め、無邪気に笑った。
「ふふ……あなた、だぁれ?」
そして意外な事に、理解出来る言葉を話した。