しかし、この男の言って居る事が本当だとしたら。外の世界と言うものに触れられる。ドールの狭い世界からは届かなかった、外の世界。諦めて居た夢の様な話。嘘だとしても悪くない。どんな形であれ、此処から連れ出してくれるなら。ドールは暫しの沈黙の後、ふっと笑った。やはりあの嫌な笑いだったが、何と無く毒気が薄れて居る様に見えたのは、左眼に僅かながら子供らしい好奇の光が射したからだろう。
「悪くないね、それ。今は本当だと思ってやっても良いよ」
嘘だと思われるのはある程度は仕方の無い事だと解って居る。このドールと言う子供は、先ず人を信用する事が出来無いのだろう。彼にとっては善人も悪人も、然して変わらないのかも知れない。 男は深々と頭を下げた。
「では、ドール様」
「その呼び方は辞めろ。敬語も駄目。オトモダチなんだろ」
男が困惑する姿が見たくて言ったのだが、彼は少し考える素振りを見せただけだった。つまんねぇ奴、と思いながら答えを待つ。
「……出来る限りの努力は致します。ではドール、本日は天候が優れませんので外出は明日以降に」
「嫌だね。子守り付きなら安全なんだろ」
散歩が待ちきれない飼い犬。そんな印象を植え付けられながら、飛び出して行くドールの後ろ姿を追い掛ける。本当に首輪とリードを着けないと容易に迷子になりそうなはしゃぎ振りである。
「……で、お前の名前何だっけ」
「リールベルト、と申します」