「……はぁ?!」
急激に外気を吸い込んだ所為で酷く噎せ、何度か咳き込む。少し落ち着くと、解放されたドールは飛び起きてリルを見た。首に体重が掛かった時、殺されると思った。死に対しての恐怖は自分でも驚く程無く、劇的な最期で無い事に寧ろ安心感さえあった。……筈なのだが。表情を崩す事も無く、軽く乱れた衣服を何事も無かったかの様に直す友人と言う名の使用人に対して、じわじわと苛立ちが込み上げて来る。
「何だよ今のは?!」
露出したままの透ける瞳。アレは左眼同様に見えて居るのだろうか。見れば見る程それに対する興味が募る。ドールが捲し立てる文句が殆ど聞こえない程、文字通り一瞬で引き込まれたのだ。そしてまた一瞬、興味と言う欲に負けた。ドールの頬に手を掛け、右眼を覗き込んで居た。誰も手に入らないこの不可解な宝石に一番近いのは、恐らく自分である。もう一度右眼に、もとい右瞼にキスをして二度目の解放。リルの意図にドールは気付いて居ないらしく、リルから何の返答も無い事に苛付いて居る様だった。
「要求して頂ければ大抵の事は致しますので」
眼帯を直し、最高に不機嫌な表情でリルを睨む。当のリルは機嫌を取る事も無く、やはり淡々と言葉を並べるだけ。何時もの事である。
「実行可能な事柄を上げましょうか、パッと思い付いただけになりますが」
苛々するからどうにかしろと言いたいが、自分が非常に面倒臭い性格だと解って居るし、今何をされたら落ち着くのか自分でも思い付かない。
「要らねぇ。物凄く腹立つ……」