当初、興味が無いとは言って居たが、実物を見た事でリルが此方の報酬より裏切る方を選んでしまったら。疑い出すとキリが無いのだがそれはリルで無くとも誰でも同じ。取り敢えず今は彼を信用する他無い。
「余計な心配はなさらず。彼を傷付ける事は致しません」
そう言う契約ですから、と。リルは何時もの様に淡々と告げた。
「本日は以上です。明日は……機嫌が直って居ると良いのですが」
ドールを知る為であれば切っ掛けは何であろうと構わないと思って居るが、それを彼が理解して居るかは解らない。故に極限まで嫌われる可能性もあるが……それだけは避けなければならない。正直な所、加減が良く解らない。
「明日の朝食は」
「それは私が。朝はゆっくりなさって下さい」
間髪入れず母親がリルを遮った。冗談でも頼む訳には行かない。リルの料理の腕も理由のひとつではあるが、ドールが両親を受け入れる数少ないもののひとつが食事だからだ。リルが居る事で更に稀薄になりがちなコミュニケーションの場を、両親としては逃す訳には行かない。
「そうですか。では宜しくお願い致します」