「開けてよ、傷む物だったら困るでしょ」
受け取ってからどの位かは知らないが、帰宅してから大分経つ。しかも、この部屋はそれなりに温かい。既に傷んで駄目だったら猟に片付けさせよう。私は触らない。と、琴珈は心に決めた。猟が渋々椅子から降り、キャリーバッグを横倒しにした。御丁寧にジッパーには小さな南京錠が掛けてある。が、それを開ける鍵は無いのか壊れて居る様で既に外せる様になって居り、錠の意味は為して居なかった。障害物の無くなったジッパーを左右に一気にスライドする猟に、躊躇いは微塵も感じられなかった。
「……思い切り良いね」
「腹減ってんだよ」
それが開くまでの極僅かな時間、琴珈は中身は何なのかと想像した。動く感じや鳴き声はしないから動物では無さそう。死骸だったらその限りでは無いけれど。水分が滲んだり垂れて居る様子も無いのでバラしたものでも無さそう。小分けにパッケージされて居たら……いや、これは考えるのを辞めよう。処分したいが安易には出来無い書物や衣類。面倒ではあるがこれらであれば大分マシ。引き取り手は掃いて捨てる程居る(しかし生物では無い)。喰べ物では無い筈。あの店にそんなものは置いて居ない。厄介なのは薬物。この量だと総額幾らでどうすれば良いのかさっぱり解らない。不味くなるからとシャチは薬物を嫌うのでそれは無いと思うが。 三辺のジッパーを開いた中には灰色の布の塊があった。正確には、灰色に包まれた何か。二人が暫くそれを見て居ると、塊が少し動いた様に見えた。
「今動いたよね」
「生き物?!嘘だろ……」
猟はこのバッグを帰り道に散々ぶつけたりひっくり返した事を思い出し、血の気が引いた。死んでは居ない様だが、どれか一撃か若しくは全ての衝撃で弱って居たら……そうで無くても何時から此処に入って居たのか知らないのに、起き出して来ないのはその所為では……?布を捲って死にそうな何かが居たら耐えられそうに無い。シャチに抗議しに行く前に、三日は寝込むかも知れない。
「捲って」
「……嫌だ」
「腹減ってんでしょ」
「食欲無くなった」