【ドールの話1】
その日は嫌な天気だった。
窓から見える空は一面灰色で、じっと見て居ると吸い込まれそうな鈍い光を降らせて居る。雨は降りそうで降らない。泣き出しそうな空とは、こう言う事を言うのだろうか。紅い雨か銃弾でも降れば良いのに、とドールは思った。
右眼を覆う眼帯を外し、その眼で空を見る。当然の事ながら、左眼と見え方は変わらない。こんなモノがどうして欲しいのか、どうして飛んでも無い価値があるのか……ただの目玉だというのに。その価値を自分で実感した事は無い。価値があるのはこの目玉であり、金持ち共が欲しがるのは自分では無いのだ。それに気付いてからは自分の存在が酷く虚しくなり、逸そ殺して目玉だけ持って行けば良いとさえ思う様になってしまった。
人目に触れない様にと閉じ込められ、外に出して貰える事は無い。不自由は無かったし我儘は言い放題だったが、楽しい事は一つとして無かった。それが当たり前だと思う様になって居る自分も嫌で。
「貴方は特別だから……」
この言葉も聞き飽きた。 特別だと言いながらも気味悪がって居るのがありありと解る。両親にとって自分は厄介者で、早く金に変えてしまえば楽なのでは無いかと他人事の様に言い捨てる事もあった。テレビや本の中の世界は別の世界で、自分の世界はこの家の中だけなのだと言い聞かせ思い込むしか無い。窓から見える光景には手が届きそうなのに、実際は遠い遠い所にあって、やはりこれも別の世界。 隔離された小さな世界で、ドールは酷く孤独だった。