空から視線を落とす。ぼんやりと灰色の景色を眺めて居ると珍しく客人が来た様で、広い庭に黒い車が入って来た。下の方で扉の開く音がし、両親が車に向かって行く。車から黒い服の男が降りると、車は庭から出て行った。遂に換金か、と思った。両親が男に何か話しながら頻りに頭を下げて居る。それが酷く無様に見えて、自然と冷たい笑いが漏れた。
(出来るだけ高値でお願いしたいのですが)
(後はどうなっても構いません)
(買われてしまえば私達は関係無くなるんですよね)
……なんて会話をして居るのかも知れない。男は無愛想に頷きながら両親の後に続いて歩いて行く。そして、再び扉の音がした。わざとらしく下りて行って、商談の邪魔をするのも悪くない。タダで連れて行けとか、目玉だけ持って行けとか。無理な事を言って困らせるのは面白いに違いない。しかし、今日は何と無く気乗りしなかった。 窓を閉めて、整えられたベッドにダイブする。ふわふわな枕に顔を埋め、眼を閉じた。
「(買われた先で……どんな暮らしが出来るのかな)」
何処に買われたとしても、真っ先にされる事は、恐らくこの右眼を抜かれる事。問題はその先だ。何の価値も無くなった時、自分はどうなってしまうのだろう。喰べ物が貰えないかも知れない。沢山叩かれたりするかも知れない。少なくとも、平穏な生活が待って居るとは思えなかった。
「ドール、下りて来なさい」
扉の向こうで声がした。適当な返事を返すと足音が遠ざかるのが聞こえた。