「何?」
普段指図される事の少ないドールは、ほんの些細な事でも腹を立てる癖がある。今も若干の苛立ちを憶えながら、リビングの両親と客人の前に姿を見せた。両親の向かいにはあの男が座って居る。彼はドールを見ると立ち上がり、頭を下げた。
「貴方がドール様ですね。私はリールベルトと申します」
「あぁそう」
自分を買い取りに来た者の名前なんて、知ってどうする。ドールは深々と頭を下げた男をちらりと見ただけで、挨拶も何もする事は無かった。
「ドール、リールベルトさんは貴方の新しいお友達で……」
「……へぇ」
お友達と一緒に行くのよ、二度と帰っては来られないけれど。そう続くのだろう。下らない前置きや正当化なんてどうでも良い。さっさと連れて行けば良いのに。 母親が未だ何か言って居たが、ドールの耳には入って来ない。
「部屋を案内してあげたら?」
「好きにしろよ」
部屋に戻っても良いのだと勝手な解釈をし、ドールはリビングから出て行った。 両親は申し訳無さそうに、リールベルトに頭を下げる。彼はドールが出て行った扉を暫く見て居た。
「まぁ……当然の反応ですね。直ぐに受け入れろと言う方が無理な話ですから」