結局アンドロイドと人間の事ばかりで、余り面白い話は聞けなかった。暇潰しになったと言えばそうなのだが。ふと、彼奴はアンドロイドと人間をどう思って居るのか何と無く気になった。帰ったら聞いてみるか。……憶えて居たら。
「可愛い子猫ちゃんね、生意気そうで」
近くで声がした。子猫とは俺に向けた言葉だろうか。声の方を向くと、真っ紅なジャケットを着た女が此方に向かって歩いて来た。金やピンクやオレンジ……様々な色が渦巻く彼女の不思議な眼に、俺の黒い影が映り込む。印象的と言うか、正直気味が悪い。
「……子猫じゃねぇんだけど」
「あぁそう。まぁどうでも良いんだけどね」
紅い女は頻りに辺りを見回し、何かを呟いて居る。微かに聞こえた感じでは誰かを捜して居るらしいが、今の彼女の姿はどう見ても不審者だ。
「アンタさ、全体的に怪しくね?眼の色変だし」
とても人間のそれとは思えない。俺の知る限りだが、人間の眼は色が変わる事なんて無い筈だ。それに、左眼の下にバーコードが……あれ?
「……ちょっと。黙って聞いてりゃ怪しいとか変だとか。幾ら可愛い子猫でも女性に向かって失礼な事言うもんじゃ無いわよ」
「だから子猫じゃねぇっての」
さっきの刑事、別れ際にバーコードがどうとか言って居た様な気がする。追い掛けて居る違法アンドロイドは女だとも言って居た。……もしかして、目の前の此奴がそうなんじゃ無いのか?
「……人間?」
辺りを窺うのと独り言はもう気が済んだ様で、彼女は俺の方に手を伸ばした。白い手袋を嵌めた手が頭や首に触れる。撫でられるのは余り好きでは無いが、その手は直ぐに離れた。
「半分人間……かな。アンドロイドなんだ、未だ改造途中だけど」