不意に、刑事との会話が甦った。機械より生身が良いとか、死から逃げる理由は、と言う結局答えが出なかった話。
「お前さ、何でアンドロイドになりたいの?生きてるのに」
機械になりたい人間全てがそうだとは思えないが、彼女は答えを返してくれそうな気がした。初対面で根拠は無いが、何と無く。所謂直感と言う奴だ。
「生きてるのに、って何?体が機械になるだけなんだから、生死は関係無いでしょ……」
先程までの砕けた態度が一変、彼女は淡々と語り始めた。生きて居れば遅かれ早かれ死ぬのは当然の事であり、それが生身だろうと機械だろうと同じ。寿命が延びると言うだけで何れ死は訪れる。
「勘違いしてる様だけど……機械化したからって不死にはなれないよ、何も楽になったりしない」
多分ね、と彼女は呟く様に言った。
「そもそも楽な生き方なんて、どう頑張ったって凡人には出来る筈無いし……」
「……そう言う事が聞きたいんじゃ無いんだけど」
肝心の答えが聞けて居ない。彼女なりの返答なのかも知れないが、生憎全く意味が解らない。暫しの沈黙の後、彼女は意地悪そうな笑みを浮かべて猫の頭を撫でた。
「……解んないでしょ?」
その手を払う様に軽く頭を振る。嫌がって居るのが解るのだろう、辞めるどころか更に纏わり付いて来る。逃げようとしたが、体が動く前に宙に浮いた。
「お前っ……」
「わざと解らない様に言ったの。……まぁ猫には解んないよね、人間にだって理解されないんだから。別に構わないけど」
聞こえて居るのか居ないのか、俺の声は完全に無視された。