「気付かなかったけど……君、何処かで飼われてるんだ?」
俺を抱き抱える腕が僅かに動き、指が首輪に触れたのが解った。これを見て、大抵の人間が……いや、全員が同じ事を言う。
「友達に貰った。でも飼われてる訳じゃ無い」
「ん、友達?……飼い主じゃ無いなら何でくれたんだろうね。首輪って束縛の証なのに」
実際、彼奴がどうしてこの首輪をくれたのかは解らない。認識して居ないだけで、俺は彼奴に飼われて居るのだろうか。繋がれて居なくても、家に居なくても。 友達と飼い主は、同じもの?
「私のは所有物の証。改造が終るまでは必要なんだって。結構可愛いよね」
ぎゅっと抱き締められ、いい加減逃げてやろうと思った時、漸く気付いた。こんなにも密着して居ると言うのに、共有するどころか奪われる一方で……彼女には、体温が無かった。不思議なもので、気付いたその瞬間から彼女が全く別の何かに見えて来る。恐怖に似た別の感覚がじわりと滲み、つい先程までの会話が嘘の様に塗り潰されて行く。
「離せっ!」
腹の辺りを蹴り付け、飛び降りる。振り返ると少し残念そうな表情で此方を見下ろして居た。闇夜に浮かぶ、色が渦巻くあの眼が一際気味の悪いものに見える。本当に……人間じゃ無い。
「もっと愛想振り撒きなさいよ。猫だってモテたいでしょ?」
彼女の姿も言動も、何一つ変わらないと言うのに。
「さて……そろそろ行かなきゃ。またね、子猫ちゃん!」
「だから子猫じゃ……」
くるりと背を向けた彼女は、軽く手を振りながら走り出した。そう言えば、あの警官達は未だ仕事をして居るのだろうか。暫く此処に居たが、俺達の他には誰も居ない様だった。