───あれから数日。
何時もの様に目的も無く歩いて居ると、暗闇の中に小さな灯が見えた。不規則に着いたり消えたり、気付いてみれば煙がゆったりと流れて行く。
「そんなに珍しいか」
聞き憶えのある声が煙に乗って流れて来る。誰だったかと頭の中を探りつつ声の方を向くと、此方に銃を向けた男が立って居た。
「別に……何時も暇そうだな。見付かったのか、例のアンドロイド」
この手の遊びが好きなのか、そもそもフェイクなのか……何時か逢ったあの刑事だった。彼は煙草をくわえたままさぁね、と素っ気無く呟き、構えて居た銃を下げて腰の辺りに仕舞った。
「俺は多分逢った。お前と話した日に、直ぐ近くで」
「……直ぐ近く?」
憶えて居る限り……と言うより、気の向く限り。恐らく全部では無いが。彼女と逢った時の事を話して居ると、抱き上げられた時の事が嫌でも思い起こされる。が、この刑事に当たっても仕方無いので、その辺りは触れない様にして置く。主に自分の為に。向こうに取っても役に立たない情報だし。
「何だよ、条件反射って……まぁ捕まるのは時間の問題だろ。どの程度反撃して来るかにも寄るが……」
刑事の声に混じり、直ぐ近くで砂利を踏む音がした。俺と刑事はほぼ同時に、音のした方に視線を向ける。すると其処には紅いジャケットを着た女が立って居た。様々な色が渦巻く眼が無機質に浮かび上がって居る。
「あれ……もしかしてこの間の子猫ちゃん?また逢えたね!」
刑事の存在に警戒しない所を見ると、やはり追われて居ると言う認識は全くと言って良い程無いらしい。刑事を無視して此方に駆け寄って来る。しゃがみ込んで俺を撫でようと手を伸ばした。