「お前だな、違法改造って奴は」
追って居る者の特徴と先程の話、目の前に居る独り……いや、一体。刑事の中で完全に一致した様だった。俺に触れようとした手がピタリと止まり、気味悪い程に明るく色鮮やかな眼が光の筋を残しながら黒い影を見上げる。彼女は刑事を見上げた。
「……誰?」
刑事は無言のまま胸元のバッジを指した。それを見ても彼女が動揺を見せる事は無い。俺が其処に居る所為か、手を差し出したまま逃げ出す素振りも無い。
「違法改造って……私が?」
「他に居るか?」
ゆっくりと立ち上がり、刑事と真っ直ぐ眼を合わせる。
「そんな事無いよ、ちゃんとお金払ってるもの」
彼女の言葉に刑事は軽く笑う様に煙を吐き、煙草を揉み消した。互いに無防備に見えるが、こう言う瞬間を狙って逃げたら良いのでは無いだろうか……そう思ったが、その場からは誰も動かなかった。
「金を払ってりゃ合法かって?ギャングだって金払って武器買ってんだよ。麻薬取引も合法か?」
まぁそう言う事だ、と。刑事が言い終るが早いか……どう言う訳か、俺の体は宙に浮いて居た。正確には、走り出した彼女に抱き抱えられて居た。またこれも条件反射なのか、それともやっと命すら危うい状況だと気付いたか。何方にせよ……何故俺を連れて逃げ出したのか。
「いきなり何すんだよ?!俺は関係無いだろうがっ」
弾ける様な音がした。直後、辛うじて見えた彼女の口元が歪み、何かに躓いた様に体が傾く。しかしそれはほんの一瞬で、彼女はそのまま走り続けた。