廃墟の様な町並みは寧ろ新鮮な光景だ。彼奴と住んで居る所は比較的都会で、新しかったり古くても綺麗な建物が沢山ある。決まりがあるのか知らないが殆どの壁は白く塗られて居て、完全に暗くならない薄明かりの様な感じ。真っ暗な此処とは真逆だな、と思った。星を見るには此方の方が良いかも知れない。少し高い屋根に飛び乗り、空を見上げてみた。
「……何だ?」
真っ黒な中に光る無数の星達。しかし、どれも見た事の無い並びをして居る。寧ろ並んでなんて居ない様にも見える。小さな光がただ散らばって居るのかと思える程、不思議な感じがした。
「何が見える」
不意に聞こえた声は背後からゆったりと、緩やかな風に乗って来た。振り向くと、黒いコートを来た男が居た。見憶えがある様な気がして記憶を探る。数日前に見たナイフが刺さった男だった。
「生憎、眼は良く見えない」
こんな真っ暗な場所で星も見えないなんて一体どんな世界を見て居るのだろう。真っ暗な闇がただ続くだけだとしたら耐えられそうに無い。俺の場合、黒い体の所為で誰にも見付けて貰えないかも知れないし。
「星みたいなのが沢山見える。月もある。街よりは明るいかもな」
黒い空にバラ蒔かれた小さな光は屋根の上から見下ろす街灯そっくりだった。暗い空を見上げ、ナイフ男は眼を細めた。月明かり位は見えるのだろうか。
「見上げる場所で違うのか」
「俺も今知った」
帰ったら彼奴に教えてやろう。空と街が鏡に映したみたいな光景なんて何処でも見られるものでは無い筈だ。怒るだろうから見た場所は言わない事にする。
「もうひとつ聞く。見下ろした中に“白い奴”は居るか」
「この高さだと其処までは見えない。……と言うか見えない癖にどうやって登って来たんだよ」
「盲目な訳じゃ無い。多少は見えるさ」