暫くそうして居たが、何方からとも無く其処から飛び降りた。結構な高さがあった様に思ったがナイフ男は物音を殆ど立てる事無く降りて来た。それを見た時、初めて逢った時に言って居た事を思い出した。
「前に逢った時、教えてくれるって言ったよな。お前何なの?」
人間では無い事は解る。大抵の動物は腹を刺されたら死んでしまうだろう。致命傷にならなくても何らかのダメージは残る。この男の様に何事も無かった様に立って歩くなんて事は出来る筈が無い。更にあの時、ナイフを抜いてから歩き出すまでの間に刺し傷は塞がって居た様に思えた。
「あぁ……そんな事言ったかな。特に面白くも無いが……」
良く憶えて居ない程遠い昔に何処かで誰かにそうして貰ったとか、所謂良くある話だろうと思って居たのだが。
「呪いだか憑きものだとか言ってたか……何だったかもう良く憶えて無い、残念ながら」
出て来たのは、聞き馴れない物騒な言葉だった。
「死なない訳じゃ無い、自己治癒力が高いだけで何の役にも立たない呪い。要するに無駄に長生きするって事だ」
「……呪い?」
詳しく聞きたい様な、そうでも無い様な。そもそも聞いても良い事なのだろうか。呪いなんて魔法みたいなものが本当に存在する事が驚きだ。……とは言っても現に見て居るし、疑い様が無い。言ってみれば、昔々の人間に取っては炎も機械も魔法だったのだ。
「自分で望んで、叶ってやっと気付くんだよ。こんなにも役に立たないもんだったのかってな。まぁ後悔はしてないが……」
ナイフ男の言葉には生き物らしさと言うか、感情が無い様に思えた。どの位生きたのかは知らないが、其処らの人間よりは生きて居るだろう。今はしなくとも、その間に何度かは後悔したり歓喜したり……と言う事もあった筈。永い永い年月の中では、そう言う事が無意味に思えたりするのかも知れない。