「この街が狭くて良かった」
俺とナイフ男は、ほぼ同時に振り向いた。暗がりにぼんやりと浮かび上がる白い影がゆっくりと此方へ向かって来るのが見える。姿は良く見えないが、少し前に逢ったナイフ男を捜して居た奴の様だ。
「やぁ、猫くん。彼とはお友達だったのかい?」
「別に……おい!何だよ!」
唐突に首の後ろを掴まれ、体が宙に浮いた。逃げる隙なんて無く、気付いたら直ぐ目の前に青い眼があり、少し哀しそうな表情に見えた。ナイフ男を捜して居た奴には違い無い。さっきナイフ男が言って居た“白い奴”とは同一人物か?確かに白い服は着て居るが……
「お友達なら教えて欲しかったなぁ。そうしたら楽に見付けられたのに」
ナイフ男は俺と白い奴をただ見て居る。期待して居た訳では無いが……逃げないなら助けてくれよ、動けないんだから。
「人質……いや、猫質?そう言う訳じゃ無いんだけど……意味、解るよね」
白い奴は俺を掴んで居るのとは反対の手に銃を持ち、俺の脇腹に突き付けた。ナイフ男に対して何の意味があるのか解らないが、やばい。これはやばい。冗談でも笑えない。この銃は護身用の筈で、そうなると実弾が入って居る筈。出て来た瞬間こんな状況になるなんて、前に逢った時はマトモな奴かと思って居たが……此奴なかなかブッ飛んでる。
「お友達のお腹が吹っ飛んだら嫌だよね」
つい数分前まで穏やかだった闇にゆったりとした殺気の様なものが混じる。張り詰めた様な鋭いものでは無く、地面を這い回る様な、絡み付く様な……じわじわと攻めて来る様な、酷く気味悪い感じの何か。その気味悪いものに殺されるかも知れない。今、生まれて初めて命の危機を感じた。