「その猫が死んだって俺は何とも無い。お前には罪悪感なんて無いし、誰かの生死に意味なんて無い」
「随分正直に言ってくれるな」
せめて意味なんて無いから辞めろ、まで言って欲しかった。 そうだね、と呟く様に言い、白い奴はを下ろした。撃たれる危険が無くなった訳では無いが、取り敢えずは助かった……未だ掴まれては居るけど。
「要因なんて何でも良いんだよ。君がこの猫を大事に思ってるなら、猫を傷付ける事で僕に対しての意識が生まれる筈なんだ。憎しみか悲しみか……解らないけど、何だって良い」
それが無いなら、と白い奴は俺を見下ろしたまま腕を振った。それに合わせて体が大きく振れ、掴まれて居た手が離れて宙に放り出された。そのまま地面に落ちると背中を打ち付ける事になる。足から着地出来る様に空中で体を捻り、体勢を整えた。地に足が着いて居る事がこんなに良いと思った事は無い。多分。また変な気を起こされると嫌なので、白い奴と距離を取った。
「それなら俺を撃ったら良い……殺せるかも知れないし、ヒトと交わるよりずっと興奮する」
ずっと感情を無くした様に喋って居たナイフ男の声が一変した。激しい感情を抑え込んで居る様に見えるが、相手を求める発情期の動物を思わせるその声は明らかに熱を帯び、先程までとはまるで別人だ。ナイフ男の変わり様に、俺の背筋には反対に冷たいものが走った。何を言ってるんだ此奴。さっきまでの生きてるのか死んでるのか解らない奴は何処に行ったんだ。
「君を?それこそ意味の無い事じゃ無いのかな。別に殺したい訳じゃ無いし」
白い奴の手には未だ銃が握られて居る。引き金に指は掛かったままの様だが……俺を掴んで居た時、ナイフ男の返答次第では本当に撃つつもりだったんだな。人を見掛けで判断するのは辞めよう。此奴等、何一つマトモじゃ無い。