ナイフ男と白い奴は暫く黙ったまま、互いを伺って居るらしい。その間を冷たい風がゆっくりと吹き抜けて行く。
「言いたい事が良く解らないね。僕に殺されると思って逃げてたって事?」
「逃げてる訳じゃ無いし殺されるとも思って無い。お前が勝手に追っ掛けて来るだけだろう」
互いが互いを捜して、その結果が擦れ違いで……と言うのをずっと繰り返して居るらしい、と言う様な事が何と無く解った。そんなにも必要な者同士なら一緒に居れば良いのに。スタート地点は同じだった筈だろうから。
「……訳が解らないよ。じゃあ何で捕まってくれないの?」
薄っすらと笑みを浮かべては居るが、声には苛立ちが滲んで居る。直ぐ近くにあるのに手に入らない、思い通りにならない。そんな苛立ちだろうか。見た感じ子供みたいだし、そう言う感情を我慢するのは嫌なのかも知れない。
「ねぇ猫くん、君は解る?彼の言ってる事。お友達なんだろ?」
俺にぶつける気かよ。下手に答えるとまた放り投げられそうだからもう何も答えてやらない。今度こそ撃たれるかも知れないし。ナイフ男のお友達と言うのも此奴の思い込み。人間が解らない事が猫に解る訳が無い。ナイフ男は“元”人間の様だが。
「さっきは御免ね、殺す気は全然無かったんだけど。気ィ悪くしないで」
嘘吐け、殺る気満々だっただろ。ナイフ男が言った「罪悪感なんて無い」と言うのは、その通りらしい。人殺しとか……平然とするのかも知れない。
「勿論、本人様が教えてくれても良いんだけど?」
白い奴が視線をナイフ男に戻すと、ナイフ男は軽く溜息を吐いた様だった。
「……未だ解らないのか」