逃げれば良いのに、俺は不穏な空気を感じながらも未だナイフ男を見て居た。
「快楽で縛れと言ってるんだよ。唯一忘れられない感覚で」
白い奴の薄笑いが消え、その裏に隠されて居た冷たい表情が露になる。無言のまま銃口をナイフ男に向け、引き金を引いた。一発、二発、三発。弾はナイフ男の胸の辺りに当たり、地面に血痕が幾つも落ちて行く。せり上がる血液が口から溢れ出すのが見えた。
「……何だ、そんなので良かったのか」
ナイフ男は紅い影を広げながら暫く揺らいで居たが何度か激しく咳き込み、足元に何かを吐き出す。微かに金属音がして、紅い吐瀉物の中に銃弾があるのが見えた。それに気を取られて居た所為で白い奴が距離を詰めて居るのに全く気付かなかったが、俺にはもう興味は無い様だった。まぁ最初からそうだったのかも知れないが。白い奴はナイフ男の胸元を掴み、紅の中に引き倒した。
「簡単だから気付かない、君がそうさせるから。難しい事を考える程に遠ざかってく」
血溜まりに倒されたナイフ男は抵抗のひとつもしないで、あの星空か若しくは白い奴を見上げて居る。
「頭が痛くなる度に、僕には理解が出来無いんだなって思ったよ」
ナイフ男を跨いで腹の上に腰を下ろし、首の辺りに残りの弾丸を撃ち込む。当然顔や服にも血液や肉片が飛び散るが、拭いもしなかった。ベルトに付けられた弾丸を込めながら独り言みたいな何かを喋り続け、ナイフ男が再生する様子を眺めて居る。
「それはそれで構わないんだけど、理解出来無いって事は手段が解らないって事なんだよね」
大穴が空いたであろう部分が繋がったのか、ナイフ男の体が小さく跳ねた。微かに呼吸音が聞こえ、俺は少しだけ後退りした。