死んだ者が生き返る姿と言うのはそう見るものでは無いが、俺はナイフ男のそれを二度見た。何度目だろうが気味悪いと思うのは変わらない。数分前から多分この先ずっと、此奴は何の意味も無い生死を繰り返すのだろう。白か黒、何方かが死ぬまで。
「猫くんに助けて欲しいって?」
白い部分が殆ど無くなった白い奴が独り言の様に言った。弾が装填された銃は右手から滑り落ち、紅い水溜まりに落ちた。銃が射してあった腰辺りを探り、今度はナイフか何かの刃物を取り出した。俺にこっちへ来いと目配せする。刺さないよ、と呟いて。俺は白い奴の視線に警戒しながらゆっくりとナイフ男の傍まで近付いた。首の辺りにある筈の銃創は綺麗に消えて居た。
「……アレは……星空、では無い」
未だ再生が完全では無いのか、少し苦しそうな声でナイフ男が言った。屋根の上から見た景色が脳裏に浮かぶ。街灯を鏡に映した様な、人工的に見える空。今も見上げれば同じものが見えるだろう。何と無く、今はそうする気にはなれなかった。
「そうなのか」
「この街から空は見えない」
未だ何か言いたそうだったが、溢れ出て来た血液がそれを遮る。冷たい表情のままの白い奴が手に持った刃物が胸の辺りに突き刺さって居た。何度も何度も同じ場所を刺し、紅く染まって行く白い奴の表情は変わらない。何方も気味悪いが、今の状況だと刺して居る奴の方が嫌な感じがする。……そう言えば此奴は、人間なんだろうか。
「君が再生するまで待つのが辛い位、興奮しっ放しなんだ。本当に君の言う通りだね。誰かと交わるよりずっと興奮する」
白い奴、と言うより白かった奴は、もう俺の存在を忘れたみたいだった。二人が居る辺りは文字通り血の海で、何方かが何か言ったとしても意味なんて無い様に思えた。