縛った奴が器用なのか不器用なのかは解らないが、縄はほどけなかったので結局切る事になった。取り出されたナイフを見て、やはり気が変わって脚ごと切り落とされたら……と思ったが、毛を削ぐ事も無く縄は切れた。直ぐ様飛び起きて距離を取る。
「そんなに警戒しないで良いよ、人様のものは食材には出来無いって言い聞かせとくから」
その割には逃げないんだね、と笑った。逃げるも何も、開いて居る扉も窓も無いのだが。逃がす気が無く言って居るのか、気が付いて居ないのか。さっきから話が通じて居ない……訳では無いが、少しずれて居る様な。
「取れてるコが捌かれても文句言えないけど……君は良かったね」
首元を指して言う。人間は本当に首輪の有無で判断するんだな。新しい人間に逢う度、皆同じ事を言うのだから間違い無いだろう。まぁそのお陰で今は助かった訳だが。所で、此奴等に出逢ってからずっと気になって居る事がある。
「猫って食材になるのか」
少なくとも彼奴は喰べて居ない……筈。見た事は無い。人間は鳥を飼いながら鳥を喰べるから不思議では無いが。
「何だってなるよ。肉が無ければ骨でも何でも。うちは普段は扱わないけど」
「無いのかよ!今までのは何だったんだ……」
捌かれる心配は恐らく無くなったが、その前に従業員にどう言う教育をして居るのかと問い質したくなった。若しくはあの二人が馬鹿なのか。
「本当だよね、だから御詫び。こう見えて私は動物好きなんだよ」
「主に食材としてだろ」
「それもあるけど……前に金魚と暮らしてた。十年位生きたよ」
金魚の寿命の事は知らないが、縛られて突き出された時点で放り出さなかった事と詫びと称した喰べ物を出して来た事を思えば、好きなのは本当なのかも知れない。人間は何故かやたらと喰べ物を与えたがるものだし。