それから暫く経ったが、俺は未だ同じ街に居た。その後奴等に逢う事は無かったし、それが無ければ居心地の良い所だと思ったからだ。幸いにも俺を捕って喰おうとする人間は他には居なかった。ベンチで微睡んで居た時、不意に妙な匂いがして目が醒めた。陽が傾き始めて居た様で、空は少し薄暗くなって居る。欠伸をして顔を上げると目の前に緑色のひらひらした何かがあった。
「……猫か」
呟く様な低い声。ひらひらを辿って見上げると、男が此方に視線を向けて居る。真っ暗な眼窩に金色の眼……だろうか。少し人間離れした様な不気味さを感じる。ひらひらして居たのは彼の服の一部で、改めて見れば焦げた様な跡や破れた部分もかなりあり、酷い有り様だ。覚醒して行く頭がこれは火薬の匂いだと告げた。
「酷ぇ格好だな。爆破でもされたのか」
「まぁ……そんな所だ」
適当に背伸びして座り直す。そろそろ活動するのに良い時間帯だ。
「お前、あの店の餓鬼共にやられてた猫だろ。捌かれなくて良かったな……」
良く逃げられたな?と半笑いで独り言の様に言う。
「アレは下手物喰いの巣窟みてぇな所だ、気を付けろよ」
やはりその可能性があったと言う事か。並んだ調理器具と縛られた感覚を思い出してしまい、首筋がぞわりとする。そうだとすると逃がしたのは只の気紛れで、次に逢ったら本当に危険かも知れない。……と言うか、見て居たなら助けてくれても良いんじゃ無いか。
「知らずにやった訳じゃ無かったのか……マジに食材かよ」
「片方は白痴の奴隷だからな。もうひとりはどうだか知らんが、マトモな頭はして無いだろうよ」
どちらがどうなのかは解らないが、何故生きて出られたのか不思議な状況ではないか。恐らく次は無い。嫌な感覚を振り払う様に頭を降った。
「ま、命が惜しかったら早々に此処から離れる事だ」