【化物】
どの位になるのだろうか。薄暗い部屋の中で、俺はぼんやりして居る。小さな窓は此処からは遠過ぎて何も見えない。
何日。
何週間。
たった五分かも。
俺はただ、灰色の何も無い天井を眺めて居る。他に出来る事は何も無いから。
「……猫……」
何度目かは忘れてしまったが、扉が開く音と静かで低い声が同時に耳に入って来る。俺はほぼ無意識に、ゆっくりと音の方へと顔を向けた。少し離れた所から、名前も知らない化物が俺を見下ろして居るのが見えた。
「……開いてるのに」
最初は兎に角逃げたかった。この巨大な化物がただ怖くて、逃げる以外の選択肢は思い付かなかった。俺より巨大な生き物は沢山居るが、こんな姿の生物は見た事が無かったから。その巨体は淀んだ緑を纏い、冷たい光を宿す銀の眼が覗く。そんな異形に恐怖以外の何を感じろと言うのか。化物は無言で俺を掴み、此処まで連れて来た。それから今までの事は余り憶えて居ないが、我に返った俺は色々考えた。考えうる全ての最悪な事態。喰われる。殺される。犯される。同じ様な姿にされる。苗床にされるとか。自分の内臓見せられたらどうしよう。きっと耐えられない。どれを取っても最悪。優劣なんて無い。
……もう、帰れない。
化物が何もして来ない、近付いてすら来ない事に気付けないまま、足掻く事も忘れてぼんやりと灰色の天井を見詰める。其処には、絶望感だけが渦を巻いて居た。
「(彼奴……心配してるかな……)」
捜してくれて居るだろうか。それとも、何時もの事だと放って置かれて居るだろうか。真っ白な服を着た彼奴の姿が瞼に浮かんだ。
「(滅茶苦茶怒る……かなぁ……)」