「……そうじゃ無い」
辛うじて聞こえる程にぽつりと呟いて、それきり化物は何も言わなかった。
訳が解らない。星と目玉と言うのは、モノの例えだろうか。それとも俺の理解力が余りに足りないんで、続きを話すのが嫌になったとか。言葉は通じるのに肝心の中身が理解出来無い。これも種族間の違いと言う奴なのだろうか。
「お前さぁ……」
巨大な影が本体の動きに合わせて揺らめく。ゆっくりと距離を詰める俺を、銀色の眼が追う。俺は化物の直ぐ前で立ち止まった。
「俺をどうにかする気ある?殺すとか……他にも何か」
「……それが目的だとしたら、お前は今生きて居ない」
「あぁそう……」
思って居た通りの言葉が返って来た。澱んだ銀色の眼が俺を見詰めて居る。俺は化物の傍に腰を降ろした。
「……怖がって居た癖に」
「今は別に。気が変わって殺したくなったら言えよ、逃げるから」
化け物は少しの間の後、俺から視線を逸らした。こんなに近くに居るのに、本当に何もする気は無い様で。この分だと拐われて来た理由は、まるで解りそうに無い。唯一解ったのは、少なくとも獲物では無いと言う事位か。
「?……」
緊張が解けた所為なのか、不意に睡魔に襲われた俺はそのまま化物に寄り掛かった。火薬と、少しだけ血の匂いがしたけど、気にする程では無かった。ほんのりと暖かい奴の体温が心地好い。微睡みの中で澱んだ銀色を見た。そのまま眼を閉じると、意識は深く深く沈んで行った。
俺の意識も記憶も、此処まで。 後の事は憶えて無い。その後に何があったのか……俺は知らない。