真っ白な服を着た少年が、陽の昇り始めた夜明けの町を走って居る。彼は一匹の猫を捜して居た。
「何処行ったんだ……」
肩で息をしながら辺りを見渡した。陽が照らし始めては居るが町は未だ眼醒めて居ない様で、動くものは自分だけかと思う程に静かだ。呼吸を整えながら少年は、未だ行って居ない場所が無いか考える。あの黒猫は飼い猫では無い。帰って来ない日も良くある。捜す理由なんて無い筈なのだが、昨夜から嫌な予感が消えなかった。
「(俺……何してんだろ……)」
不意に何かの気配を感じ、少年は振り返る。視界が深緑で塗り潰されたその一瞬、何なのか解らなかった。驚いて数歩後退すると、それは自分よりも遥かに巨大な化物だと確認出来た。
「お前はっ……」
化物はゆったりとした足取りで少年に近付いて来る。少年は殆ど無意識に、腰に射して居る銃を手に取り、構える。自分でも驚く程冷静だった。化物が何か言ったのが微かだが聞こえた気がした。理解は、出来無かった。化物は少年に向かってゆっくりと手を伸ばした。
その、瞬間。
少年の指は引き金を引いた。ほぼ反射の様な、流れる様な動きだった。
「…………!」
銃弾が当たる瞬間、化物が再び何か言った様な気がする。銃弾は化物の頭部を綺麗に撃ち抜いた。少年は化物が崩折れる様をただ見て居た。その巨体が地面に落ち、気味悪い緑色の血液がじわりと広がる。暗い緑色を見詰めながら徐々に我に返った少年は、動かなくなった化物にゆっくりと近付いた。仰向けに倒れた胸の辺りに、不自然な影がある。それは良く見馴れた様な……丸くなった猫の様に見えた。
「……これ……は……」
不思議と涙は出無い。頭もすっきりして居る。その影は確かに捜して居た黒猫。首輪も、顔も何も解らなかったが、間違い無い。酷く安心して、幸せそうに見えた。無理に引き剥がす事は、少年には出来そうも無かった。