大きいものと小さいもの。
美味しいものと不味いもの。
生きてるものと死んでるもの。
何も無いと思って居た世界にも色々なものがあると気付いたのは、大分前の事だった様な、つい最近の事の様な。何も無いと思って居たのは、知りたい事が無かったから。アレが知りたい、コレが知りたいと言われて初めて、それは一体何なのだろうと疑問を持った。先ず、キノコに毒がある事を知らなかったし、それを喰べたら死ぬ事も知らなかった。真っ紅なキノコが真っ紅な肉を喰う。当たり前だと思って居た事が、その時初めて不思議なものに見えた。何故血が紅いのだろう。何故肉が紅いのだろう。何か言って居たのは誰だったか……
「(……助けて…… さ ……!)」
しかし、もう存在しないであろう存在を思い出すのは難しい。同じ様な事が永遠に続く世界で、それに比べれば刺激的な出来事だったかも知れないが、全て断片的。思い出す方法はある。キノコのどれかを喰べれば良いかも知れないし、その辺に頭をぶつけたら良いかも知れないし、あの場所に行くのも良いかも知れない。其処に歩いて行く脚は無いけれど。
「……さて……そろそろ」
辺りの空気がピンク色に染まる。眼を突き刺す様な眩しいピンク。空気だけでは無い。つい先程まで灰色だったキノコも同じ色をして居る。正確には空気では無く、ピンク色の胞子が舞って居るのだが、これは水煙草をくわえた芋虫が空腹であると言う意思表示。それに伴い、数秒前に考えて居た誰か?何か?の事は忘れ去られた。 私は芋虫だから、記憶が穴だらけなのは仕方無い。
【忘却と盲目の森】