好きなものは、甘いもの。
嫌いなものは、それ以外。
巡る血液すら甘いのでは……なんて思ってしまう程、彼の口にするものは甘い。以前、と言ってもどの位前かは忘れたが、それ以外のものを喰べたのを一度だけ見たが、あの時は大変だった。まぁあんな事は滅多にあるものでは無いし、思い出す必要も無いので忘れたままにして置く。
温かいパンケーキに滴るのは、甘い甘い蜂蜜……では無かった。何やら緑色のチェック柄がぽたぽたと、ふわふわで美味しそうなそれを台無しにして行く。ナイフを握った手から落ちるそれがパンケーキの表面をすっかり覆ってしまうと、不気味な雫は落ちるのを辞めた。パンケーキだったものは不気味な緑色の塊になり、口に入れるのを躊躇いたくなる姿になった。
「素晴らしい!こうで無くては」
「足りなかったかい?」
白い手袋を嵌め直し、ナイフとフォークを持ち直して、彼はその緑色を口に運んだ。稀薄ながらも満足気な表情で。みるみる内にそれは小さな塊になり、あっと言う間に皿の上から消えた。巡るものまで甘いと思ったのは、少なからずそう言う事をするからで。だってあの緑色のチェック柄は彼の……
「所で、次のが選ばれたとか」
「らしいね。未だ見てないけど」
「あの娘であれば良いがなぁ」
「其奴じゃ無いと思うよ」
青い胞子を捕まえて聞き出したのは、喜ばしくもあり、また面倒臭くもある事だった。正直な所、後者の方が優勢である。
「よりみちして……たいよう……つきが……そ……ぉ……」
彼の左隣に居た鼠がテーブルに頭をぶつけた。素敵な歌は、残念ながら其処で途切れた。
【狂気の緑】