【リディカ/フィロゾ】
信用して居る訳では無いが、奴等と離れて居たい時は此処に来る様にして居る。賢者は上級の内に入るのか何らかの能力があるのかどうかは知らないが、低級共が寄って来る事は無い。独り言か何かを呟いて、答えにならないものが返って来るのもまぁ悪く無い。兎に角、此処に居れば誰にも遭わずに済む。
「あの子は壊れてる。もうどうしようも無い」
「壊れてる、とは」
「……解るでしょ」
壁に寄り掛かって座り込むリディカに胚が擦り寄って来た。良く来る所為で憶えられた様で、子犬の様にじゃれ付いて来る。
「快楽と種を求める事は生物としての本能では無いのかね」
「人間には理性ってものがあるの。まして貴方達となんか……五月蝿いな」
恐らく体温を求めて、腕の中に無理矢理潜り込んで来ようとする胚。リディカは鬱陶しさを隠しもしないが、それに伝わる事は無い。生殖の対象にならない事が未だ救いである。
「うーぁー…ぃ」
「成程。理性か。確かにな」
嘲笑を含んだ声に少し腹が立ったが、常に生殖行動をして居る様な奴等にリディカの言葉の意味が理解出来るとは思えなかった。アニェの事は当然の事ながら助けたいが、やはり敵を増やす事になるのだろうか。
「彼奴を殺せば元に戻る?」
「夢魔か」
ふむ、と暫しの間を置いて賢者はゆったりと話し出す。
「奴等の血液は強力だからなぁ。並の……いや、大抵の生物は戻れないだろうよ。お前の仲間がどうかは知らんが」
アイナと平行してあの夢魔を殺すとなると、今の状況では自信が無い。となれば、アニェの精神が少しでも此方に向く事を信じるしか無いのだが。リディカの目には大分壊れて居る様に見えたのだが、未だ間に合う状態なのだろうか。